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2020年12月21日

第30回日本建築美術工芸協会賞(AACA賞) 優秀賞

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弊社で設計監理を行いました「のだのこども園」が第30回(令和2年)日本建築美術工芸協会賞(AACA賞)の優秀賞を受賞しました。
11/1に2次審査の現地審査を、11/14に建築会館ホールでの公開最終審査を経て、優秀賞に選出頂きました。クライアントである加藤学園様、厳しい工期の工事を引き受けて施工頂きました篠原工務店様には、改めてこの場を借りてお礼を伝えしたいと思います。
審査員の堀越英嗣氏に選評を書いて頂きましたので添付させて頂きます。

選評
この計両は長く地域に根ざした幼稚園が「地域ぐるみの子育て」の必要性から保育機能に加え、卒園生、保護者たちが利用できる施設を併設した新しい「こども園」を構想したことに始まる。コンセプトに共鳴した設計者は敷地の丁寧な読み込みにより、既存の園舎と遊び場そして樹齢100年を超える木々が混在する多様な状態を貴重な環境と捉え、その景観を継承しつつも新しい風景となるコンセプトを基に設計を行っている。ともすると「自然はあるが個性の乏しい風景」になりがちな地域であるが、敷地に存在する大木群が創り出す力強い風景と、生き生きと楽しく走り回る子供たちの風景が織り成す魅力を中心に据え、建築はその背景となることでこの計画の方向性は決まったと言えるだろう。
現地に立ち、配置計画を読み込むと、長い時間の中で増築を重ねた特徴的な形を持つ既存の3つの園舎に囲まれた園庭が今回の計画に沿って木々の間に伸びやかに広がっている事がわかる。子供たちの活動と心の中心は園舎の広場から木々の間の園庭である。新しい建築は、子供たちの生き生きとした活動の中心となるのびやかな園庭と呼応するような深い庇を持つおおらかな縁側空間が奥まで長く伸びた建築となっている。垂直に伸びる大木の林と対比するような水平な建築はダイナミックであるが、包み込むような優しい表情を持っている。
その表情を作っている建築の骨格は木と鉄骨のハイプリッド構造であるが、園児や保護者に、建築の圧迫感を全く感じさせていない。材料の特性を活かした構成が優しい表情の建築を作り出している。「木造」にこだわりすぎることなく、子供たちの活動のために適材適所に鉄骨造を駆使し、半屋外の深い庇の廊下に面して全開放可能な引違いのサッシ、レール等のディテールまできめかく行き届いた設計は、建築の存在を強く主張することなく、むしろ背景として消える方向となることで、おおらかな居場所を作り出している。図面ではよく解らなかったことも実際の空間を経験することで多様な構成の意味が腑に落ちてくる。
2階レベルは保育室と木々の間に木製ルーフデッキが広がり、大木を避けるように雁行し、奥の遊戯室へつながっている。この場所に古くから根付いている大きく枝を広げた大木の林と高い空、という、他では経験できない豊かな空間の素晴らしさを感じる体験は子供たちの記憶に深く刻まれるだろう。
設計者はこれらのさりげない佇まいを、優れたアイデアと技術を駆使し実現している。また、表現のためでなく長く使われるためのメンテナンスへの対応が、デッキの雨水処理など、各所の丁寧なディテールに感じられる。
どうしたらこどもたちの日々の生活が楽しく安全で、豊かな時を過ごせるのかそして、毎朝ここに来るのを楽しみにしているこどもたちの笑顔が想像できる場所というような建築の本質的目的を理解し、それを優れたエンジニアリングで実現した設計者の力量は素晴らしく、AACA賞優秀賞に相応しい作品である。(堀越英嗣)