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2014年5月 3日

山口蓬春記念館

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先日葉山にある山口蓬春記念館を訪れました。
この建物は、画家山口蓬春(1893-1971)が1948年から亡くなるまでを過ごしたアトリエ兼住居です。既存の木造2階建の家屋を逢春が購入し、建築家吉田五十八が増改築の依頼を受け、設計を手がけた建物です。山口氏の亡後、財団法人JRが建物及び所蔵作品の寄贈を受けて、1991年に記念館として開館されています。建物周辺にはよく手入れされた庭園が広がっていて、ボタンなどたくさんの花が咲いていました。
吉田五十八氏によって増築された画室は当時のままになっていています。南北に大きな開口があり、全ての建具が壁の中へ引き込むことができるようになっていて、室内と外部が一体になるように設計されています。南側の大きな障子は、鴨居がなく、床面から天井面まで一つの障子となっており、建具の中で欄間部分が可動できるようになっています。絵を制作する机の上に鴨居の影が落ちる事へ配慮して、このような障子が生まれたと記念館に説明がありました。鴨居だけではなく、窓廻りの枠、天井照明の縁、水回り等など室内は線材が少なく、部材は華奢に設計されていました。これらの納まりは数寄屋造りとしてのスタイルではなく、南北の大きな開口から美しい庭の風景を室内に取り込むために設計されていることが伝わってきました。訪れた日は雨の降るあいにくの天候でしたが、北側の窓下に造り付けられたソファに座っていると、とても居心地がよく、長居をしてしまいました。美術館と違い、小さな子供を連れた家族で訪れても楽しめる場所だと思います。
山口氏の絵には、花や鳥が多く描かれ、また非常に明るいものが多く、特に葉山のこの建物に移ってからの作品はその傾向が強いように思います。建物や庭園が山口氏の絵の制作に与えた影響も少なくないと思いました。自分自身、建物はわたしたちの生活の背景をつくるものであって、人に与える影響は大きいと考えています。山口氏にとって本建物、庭園は大切な場所であったことが伝わってきて、気持ちの良い時間を過ごすことができました。